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川谷絵音が振り返る2020年の音楽シーン | マイナビニュース

川谷絵音が振り返る2020年の音楽シーン

「Rolling Stone Japan vol.13」の特集企画「BEST OF 2020 2020年を語ろう」では、激動の変革期となったこの一年のシーンを振り返るべく川谷絵音(ゲスの極み乙女。/indigo la End他)に取材を実施。多作でワーカホリックな作家としての視点、あるいはディープな音楽ファンとしての視点から、国内外の音楽シーンを総括してもらった。

2010年代を総括した昨年に続いて、2020年も本誌年末号に川谷絵音が登場。Spotifyの年間ランキングを基に、この一年の音楽シーンを振り返ってもらった。世界中が未曾有のコロナ禍に見舞われた2020年は、音楽の受容のされ方にも大きな変化が起こった年となった。ライブ/フェスが開催できない、レコードショップに行けない、スタジオに入れないといった物理的な制限はもちろん、普段の行動様式の変化が音楽を聴く手段にも、時間にも、ジャンルにも影響を及ぼした。Spotifyのランキングを読み解くということは、そんな世界の変化を読み解くこととイコールとなる。indigo la Endが結成10周年を迎え、ゲスの極み乙女。としては『ストリーミング、CD、レコード』という象徴的なタイトルのアルバムを発表した2020年の川谷。「日経エンタテインメント!」での連載や「関ジャム」への出演など、論客としての活躍も目立つが、あくまで一音楽ファンとしてのスタンスを感じさせる語り口が印象的な取材となった。

※この記事は2020年12月25日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.13』に掲載されたもの。取材は同月初旬に実施。

川谷絵音
2014年、indigo la Endとゲスの極み乙女。の2バンドでワーナーミュージック・ジャパンより同時メジャーデビュー。2015年、ゲスの極み乙女。で「NHK紅白歌合戦」に初出場。その後、DADARAYのプロデュース、インストバンドichikoroの結成、ソロプロジェクト「美的計画」の始動、さらにはSMAPから坂本真綾に至る様々なアーティストへの楽曲提供と、多岐に渡る活動を続けて現在に至る。2020年2月17日にindigo la Endのニューアルバム『夜行秘密』を発売予定。(Photo by Yuuki Oohashi)

コロナ禍が音楽に与えた影響とは?

―Spotifyのランキングを見る前に、2020年は川谷さんにとってどんな一年でしたか?

川谷:こんなに世界全体に、平等に何かが降りかかることって今までなかったですよね。僕が生まれてからは間違いなく一回もないし、オイルショックとかにしてもこんなに平等に降りかかってないですよね。他の国で戦争が起きても、日本は平和だったり。でも、2020年はどこの国も等しくフェスがなくなり、世界中でライブがなくなって、全部がオンラインになって、最初はうーんってなったんですけど……今までみたいにフェスがあると、フェス中心で曲作りをしてる人たちもいたじゃないですか? 「ライブで盛り上がる曲を作ろう」みたいな、そういう観点は2020年消えたのかなって。年末に「COUNTDOWN JAPAN」への出演が控えてるんですけど(編注:取材後に中止が発表された)、蓋を開けてみたらどういう感じになるのか、今まで盛り上げることを第一にやってた人たちが、一体どういうライブをするのか、僕には分からないですね。

―フェスの雰囲気は間違いなく大きく変わるでしょうね。

川谷:運動会みたいなバンドいるじゃないですか? お客さんもみんな運動しにきました、みたいな。あれはもうなくなりますよね。マスクしてライブに行って、運動できなくて。でも、一回楽しくなかったなっていう経験をしちゃうと、もう一回行こうってならないですよね? だから、どうなるんでしょうね。逆に、YOASOBIとかは曲だけ発表して、ライブはやってなくて、むしろそっちの方が時代に合ってる活動の仕方になってますよね。ライブが関係なくなって、楽曲至上主義になって、あとはネット上の見せ方が大事になってきたり。いろいろ変わってきたなって思います。

―音楽の聴き方に変化はありましたか?

川谷:それに関しては全く変化なかったですね。世間では通勤・通学中に音楽を聴いてた人たちが大半で、それがなくなって統計的に聴く時間が減った、みたいな話を聞いたりはしました。でも、僕の場合は”ながら”聴きもするんですけど、毎月音楽の連載もやってるし、新譜のチェックをしたり、それは音楽が好きでやってることだから、あんまり変わってないですね。通勤・通学の時間とかもないですし。

Photo by Yuuki Oohashi

―通勤・通学の代わりに、家で作業をしながら聴く時間が増えて、聴かれる音楽の傾向が変わったというのはあったみたいです。

川谷:コロナで配信のリリースは増えたと思います。ここ数年、ずっと増え続けてたとは思うんですけど、みんなCDのリリースを渋るようになって、サブスクを解禁するアーティストも増えたし、配信がめちゃくちゃ増えて、新譜を追うのが大変になったかもしれない。Spotifyのニューリリースが表示されて、押して、それがアルバムだと「曲数多いな」ってなっちゃう僕がいます(笑)。何から聴いていいかわからないと、人って聴かないんですよね。今って1曲目から聴いてやろうっていう時代じゃなくて、みんな一番いい曲を聴きたいから。でも、Spotifyのニューリリースはわかりやすいし、自分がよく聴いてる傾向に合わせてAIがサジェストしてくれるし、洋邦バランスよく出てくるので、それで知ったアーティストもいっぱいいます。yonawoとかはめちゃめちゃ初期の頃にオススメで出てきて、それで知りましたからね。

海外シーンの動向を見る

―では、まずはグローバルのランキングから見て行こうと思います。

Photo by Helene Pambrun(Harry Stiles), ACMA2020/Getty Images for ACM (Taylor Swift)

川谷:そうですね……2020年はやたら「Dance Monkey」が流れてましたよね? あまりにも流れてるから、途中から嫌いになりそうでしたもん(笑)。あまりにも再生された曲って、ちょっとウワッてなっちゃいません? 「Dance Monkey」は今聴けない曲トップ10に入ってくるかも(笑)。

―トーンズ・アンド・アイの特徴的な声はいい意味で引っかかるけど、何度も聴いてると特徴あるがゆえに、ちょっと癖を感じちゃうのかもしれない。

川谷:サブスクって今までみたいにヒット曲がすぐ消えないで、長いスパンでヒットするから、ずっと同じ曲が年中流れるようになりましたよね。ザ・ウィークエンドの「Blinding Lights」も、「a-haみたいだなぁ」ってずっと思いながら聴いてました。良い曲ですけどね。でも、この曲みたいなアレンジで2020年同じようなヒット曲はなかったから、それだけ難しいってことで、これをちゃんとかっこよく聴かせて、ここまでヒットさせたザ・ウィークエンドはやっぱりすごいと思います。あと、ロディ・リッチの「The Box」はすごくよかった。あの声ネタみたいなのは一番最後に入れたらしいですけど、あれがなかったらここまで行ってなかったかもしれないですよね。結局ヒップホップ強しって感じはしました。日本とはかなり乖離がありますけどね。あとはドッタドッタドッタドッタっていうレゲエ風のリズム。

―レゲトンとか、ラテン系ですよね。「世界で最も再生されたアーティスト」1位のバッド・バニーみたいな。

川谷:あのリズムはあんまり日本人に馴染みないじゃないですか? 海外はあれと、カントリーもめっちゃ入ってきますよね。あとは同じようなトラックが多い。トラップによくあるハットのチッチッチッチッチッチみたいな。

―トラップも完全に型ができてますからね。

川谷:トラックは決まっているから、差を出すには歌詞だったり、その人の出生とか背景だったり、ヒップホップは特にそれが必要だったりするけど、日本はそういうのに馴染みがないし、日本にいると英語の歌詞ってあんまり調べないから、この歌詞がどういう意味なのかとか全然わからなくて。俺はオスカー・ジェロームがめっちゃ好きで、「Sun For Someone」って曲がノリがよくて特にいいんですよね。で、本人のインタビューを読んでみたら、「地球のために人間は滅亡するべきだ」っていう意味のことを言ってて(笑)。この曲もそういう曲らしいんですよ、「太陽が昇るのは人間のためじゃない」みたいな。最初は冗談かと思ったんですけど、インタビューの最後までそんな感じで、マジか……って(笑)。

―ギャップがすごい(笑)。

川谷:洋楽の「何でこれが流行ってるんだろう?」みたいなのって、歌詞がその国のことだったりして、日本に住んでるとその国のポリティカルな背景とかはあんまりわからなかったりするから、歌詞を調べて、それでもっと好きになることもあれば、そうじゃないこともある。日本の音楽はそういうのがあんまり関係ないから、そこは独特なのかなって。

注目すべきはデュア・リパ

―ランキングの中で、個人的に好きだったアーティストを挙げるとしたらどうですか?

川谷:「世界で最も再生された楽曲」の中だと、デュア・リパが一番好きです。デュア・リパはめちゃくちゃセンスありますよね。配信ライブもすごくて、視聴回数の世界記録を作ったんですよね? モデルとしても、インスタグラマーとしての存在感もすごいし、歌もいいし曲もいいし、ミュージシャンズ・ミュージシャンでもある。今はテイラー・スウィフトやビリー・アイリッシュよりもデュア・リパだなって感じで、僕の中では2020年のアイコンでした。最近、ichikaくん、PARKGOLF、宗本(康兵)くんと4人でチームを作って遊びで曲を作ったりしてるんですけど、デュア・リパ聴きながら「こうなってるんだ」って研究して、それも面白かったです。みんなそれぞれに好きな音楽があるんですけど、デュア・リパに関しては4人とも「いいよね」って。

―デュア・リパの曲が面白いと思ったポイントみたいなのってありますか?

川谷:ちゃんと流行りも押さえつつ、自分の特徴もすごくあるんですよね。「こういうのあるよね」じゃなくて「デュア・リパだな」ってなる。単純にメロディが良いし、そのメロディとリズムの噛み合わせも最高なんですよ。デュア・リパはずっと伸びてますよね。Spotifyのランキングでもかなり上位だし、センスもあるしかっこいい。いいとこ取りをしてるんだけど、ちゃんと新しいこともやってるし、プロデューサーの名前を見ると、コライトの仕方も上手いんだろうなって。意外と今までいなかったタイプだと思いますね。

―ビリー・アイリッシュがこれまでのポップアイコンに対するカウンターだったとしたら、デュア・リパは王道を引き継ぎつつ、イギリスから出てきたニュースターだというのも大きいかもしれないですね。

川谷:あと、ハリー・スタイルズのアルバム『Fine Line』(昨年12月リリース)もよかったです。ラジオで何回聴いても、やっぱりすごいなって。あんなに人気のグループ(ワン・ダイレクション)からソロになった人が、ちゃんと音楽的なことをやってかっこいい、しかも、ヒップホップとかではないじゃないですか? 流行りも落とし込みつつ、スタジアムロックっぽいのも入ってたりして。そこが新鮮に響きましたね。デュア・リパも言ってみれば流行りの側で、でもハリーだけはしっかりロックなギターの音が聴こえてくる。このランキングの中では唯一なんじゃないかな。サブスクは音圧の問題もあって、ヒット曲の中にギターがバーンと鳴ってる曲ってなかなかなくて。さらにコロナになって、歪んだギターはこれまで以上になくなってきたじゃないですか? でも、ハリーはギターがちゃんとコードで鳴ってて、ロックでかつヒットしてる。この中では異色ですよね。

―ロックということで言うと、この号にはマシン・ガン・ケリーのインタビューも掲載されます。

川谷:マシン・ガン・ケリーも面白いですよね。でも、ああいう感じってセンスが問われるから、なかなか難しい。一歩間違えれば、ただのごった煮というか「流行ってること詰め込みました」みたいな感じになっちゃうと思うんで、マシン・ガン・ケリーはすごいなって。そういう意味では彼みたいに、ギターをセンス良く入れてくる人が、2021年には台頭してきそうな気はしますけどね。やっぱり時代は回るじゃないですか? 今の感じにはみんな飽きてきてると思うんで、だんだん変わってくるのかなって。

―「世界で最も再生されたアーティスト」のランキングを見ると、トップ20の中にバンドは一組も入ってないです。

川谷:それはちょっと寂しいですね。でも、ハリー・スタイルズがソロでここまで売れたのは嬉しいですよね。あっ、関係ないんですけどそういえば2年前の正月に、一緒にカラオケに行ったんですよ。渋谷のカラ館で。

―えー!

川谷:(野村)訓市さんに呼ばれて行ったらハリーがいて、でも店員さんは全く気付いてなかった。あれ歌ってましたよ、タイタニックの歌。

―セリーヌ・ディオン?

川谷:そうそう。あれを原キーで歌ってて、最後のほう声出なくて(笑)。その後クラブに行ったら、外国人にめっちゃ囲まれて、そのまま連れて行かれました。渋谷の街を歩いてるときは誰も気づかなかったのに、クラブではギャー!ってなって。僕はそこで帰りました(笑)。

テイラー・スウィフトに思うこと

―では今度は、本国アメリカのローリングストーン誌(以下、RS)による2020年の年間ベストアルバムを見てもらおうと思います。

川谷:こっちのランキングの方が俺は好きですね。単純に数字だけで見たランキングだと「そうだよね」ってなるんで。

―こっちにはバンドも何組かいますね。ハイムやフリート・フォクシーズだったり。

川谷:ハイムよかったですね。2020年のベストに挙げてる人も多いんじゃないですか?

―多いですね。1位のテイラー・スウィフトに関してはどうですか?

川谷:今まではそんなに興味なくて、「テラスハウス」の曲ってイメージが強かったんですけど(笑)。ドキュメンタリー(『ミス・アメリカーナ』)を観て、人間的に興味が湧いたし、改めて音楽的な人なんだなって思いましたね。カントリーっていうジャンルが当時よくわからなかったんですが、そんなことは関係なくテイラーは歌が良いから聴くようになりました。

―『folklore』はコロナ化の中で急遽作られたアルバムで、ザ・ナショナルのアーロン・デスナーやボン・イヴェールとのコラボレーションも話題を呼びました。

川谷:キャリアを積み重ねたことで音楽的なアウトプットができるようになって、ポップスで成功した今だからこそできたことなんだろうなって。ドキュメンタリーでも、これまでは人の期待に応えようとして、政治批判をしなかった話をしてたじゃないですか? 初めてトランプを批判するツイートをする瞬間とか、ああいう光景を押さえられるのがアメリカだなって思いますね。カニエ(・ウェスト)とビーフをやってたり、そういうのも日本だとないから、誤解を恐れずに言うと僕はあれを観て少し羨ましかったんですよ。でも、日本だと炎上っていう名の元でエンタメに消化しないじゃないですか。だからああいうドキュメンタリーを作るのは難しいと思います。海外は全て正直かというとそうではないかもしれないんですが、日本のドキュメンタリーは絶対に美談にするためのウソが入っちゃう。入れないと炎上しちゃうから。まあ日本の話は置いといて、テイラーはああいう姿を見せたことで、『folklore』というアルバムがより響くようになったんじゃないかな。だから、あのドキュメンタリー込みで1位っていうことなのかなって。

―同感です。あのドキュメンタリーがアルバムに説得力を与えたと思います。

川谷:ただの成り上がりじゃなくて、成り上がってからのここまでを長く追ってたのがよかったんだと思いますね。ちなみに、Pitchforkはレビューで何点つけてたんですか?

―8.0ですね。

川谷:そうか、もっと辛口にいきそうですけどね。あとはセレーナ・ゴメスもよかったし、歌姫がめっちゃ頑張ってますね。アリアナ・グランデもそうですけど、ちゃんと良い音楽作ってるなって。日本で歌姫というと、宇多田ヒカルさんや椎名林檎さんがいますけど、最近の人だと誰も思いつかないなと。海外はテイラーもそうだし、デュア・リパもそうだし、歌姫が頑張ってる。女性アーティストが台頭してきた年でもあるんじゃないですか?

―去年のグラミー以降、その流れは明確になったように思います。

川谷:ビリー・アイリッシュがその流れを決定付けた感じもありますしね。

BTSについて、川谷に刺さった洋楽は?

―RSのランキングに話を戻すと、BTSが16位に入っています。Spotifyの「世界で最も再生されたアーティスト」でも6位ですが、彼らに対してはどんな印象ですか?

川谷:好きですよ。「Dynamite」は誰が聴いても好きじゃないですか? ハッピーソウルっていうか、どんな気持ちでも聴ける曲。ああいうハッピーソウル的なディスコキラーチューンが、コロナの中でど当たりしたというか。BPM120くらいの4つ打ちはまた流行りましたね。「Dynamite」もそうだし、ビリー・アイリッシュの「everything i wanted」もそっち寄りだったし、ジェイムス・ブレイクのEPも急に4つ打ち寄りになったりとか、時代がそうなってるのかなって。デュア・リパやザ・ウィークエンドもそうですよね。EDMとかじゃない、ハッピーソウルディスコのこの流れは2021年も続くのかなって。日本には遅れてやってくるだろうし。

―サブスクで日本と海外の距離が縮まるみたいな話って、一部では確かにそうなんだけど、トレンドが少し遅れて到達すること自体はそんなに変わってないですよね。

川谷:LDH系のグループもK-POPは意識してますよね。去年テレビでGENERATIONSを観たときに思いました。K-POPの中でもBTSはパフォーマンスもすごいし、こんなグループはしばらく出てこないんじゃないですか? BTSはビルボードでも1位ですもんね。

―「Life Goes On」は韓国語メインの曲で1位ですからね。まさに快挙だなと。

川谷:日本のシティポップも、最近になって松原みきさんの「真夜中のドア/STAY WITH ME」が海外でヒットしてますよね。ここまでバイラルで盛り上がるのって、竹内まりやさんの「PLASTIC LOVE」以来じゃないですか。日本人が海外に進出しようとするとR&Bとかヒップホップっぽくなりがちだけど、それだと壁は越えられないというか。やっぱり日本はシティポップなんじゃないかなって。80年代のシティポップのミックスって、ドラムとベースが馬鹿デカくて、ああいうのがウケてるなら、あの路線でもっとやる人が増えてもいいんじゃないかと思うんですよね。あと、日本人が英語で歌うのも、しっかり言葉を学んだとしても、やっぱりちょっと違うし難しいじゃないですか? 「真夜中のドア/STAY WITH ME」の盛り上がりを見ると、日本人は日本語で歌うべきだなって僕は確信を持っちゃいましたね。

―それこそ、BTSの成功例もあるわけですしね。

川谷:でも、BTSは英語でも全然いいんだよなあ。韓国の人って器用ですよね。

―ダンスも語学もしっかり身につけさせて、そこから売り出すシステムができているってことでしょうね。

川谷:BTSを見ると、これは今の日本では無理だなって思います。どう考えても真似できないなって。

―あとはランキング関係なく、川谷さんが2020年によく聴いていた海外アーティストを教えてもらえますか?

川谷:The Mariasっていうネオソウルっぽいバンドはよかったですね。「bop it up!」っていう曲のTシャツを買おうかなって思ってるくらいに。さっきのオスカー・ジェロームもそうですけど、ギターがかっこいいものばっかり聴いてたかもしれない。自分がバンドをやってるから参考になるものないかなって、それで聴いてたのもあります。

―以前、ザ・ストロークスの新作について川谷さんにインタビューをさせてもらったときに、ポストパンクに注目しているという話もありましたよね。

川谷:ポストパンクはめっちゃ聴いてました。BBCが毎年選ぶやつ(BBC Sound of:注目新人リスト)にも、ポストパンクが年々増えてきてて、USはまだだと思うけど、やっぱりギターが増えてくると思うんですよね。2021年は、Spotifyのランキングにバンドも入っててほしいですけど。

―特に好きだったバンドは?

川谷:Do Nothing、The Cool Greenhouse、Egyptian Blueとか……あとはイギリスのバンドじゃないけど、U.S.ガールズとかも聴いてました。だから自分の傾向としては、ポストパンク系かネオソウルっぽいものに二極化してたかもしれない。ジャパニーズ・ハウスやEasy Lifeとかもよく聴いてたな。

―そういう人たちの影響が、indigo la Endやゲスの極み乙女。に落とし込まれているのは何となくわかる気がします。

川谷:あとはブラック・ミディやビッグ・シーフは去年から好きですね。とりあえずギターが入ってるのをよく聴いてた感じです。特にオスカー・ジェロームはやっぱり、ギタリストとしてもリスペクトしかないですね。人類を滅亡させようとする曲は怖いですけど(笑)。

ヒゲダン躍進、国内チャートを見る

―では、今度はSpotifyの日本のランキングを見て行こうと思います。やはりOfficial髭男dism(以下、ヒゲダン)の強さが際立ちますよね。ランキング3冠という。

川谷:結局ヒゲダンが強いんだなって。ヒゲダンのアルバムが2019年で、King Gnuのアルバムが2020年だったこともあって、フィジカルの売上はKing Gnuの方が断然上だったんですよ。だから2020年はKing Gnuの印象が大きかったんですが、蓋を開けてみたら、曲が聴かれてるのはヒゲダンが凄くて、ヒゲダンの曲は(ランキングに)いっぱい入ってるけど、King Gnuは「白日」1曲というパターンが多かったですね。だから何って感じなんですけど、ヒゲダンは「Pretender」の後も「I LOVE…」を大ヒットさせてるし、ヒットチャートの話で言えばもう別次元ですね。昔の曲も未だにずっと聴かれてるし。でもそう考えると、日本はバンドが強いですね。

―ちょっとずつ変わってきてはいるけど、2020年はまだ強かったですね。

川谷:バンドのファンって、ちょっと特殊じゃないですか? シンガーソングライターのファンよりもより密というか、ときには宗教っぽくなったりして、バンドはその人間にファンがついてる感じがすごくするんですよね。あいみょんは人間についてるというよりも曲についてる感じがするけど、King Gnuは曲もそうなんですけど人間的な魅力もめちゃくちゃ大きい気がして。

―常田大希さんと井口理さん、タイプは違うけどそれぞれ魅力的ですもんね。

川谷:King Gnuは一般的には難しい曲が多いじゃないですか。「三文小説」も音楽的に構築されてて、J-POPっていうものからはアレンジが逸脱してる。でもそれが売れちゃうからこのバンドは凄いですよね。2020年アルバムを出して以降は、もう自分たちの好きなことをやろうっていうモードに入ってるように見えて。かっこいいものが売れるっていう一番健全な例な気がしますね、King Gnuは。その一方でヒゲダンは、ちゃんと売れる曲を作ろうとしてる感じがするんですよね。ずっと前からマスタリングをテッド(・ジェンセン)とやってたり、サブスク対策を初期からやってたから、それが如実に結果に出てるなって。ギターもそんなにガンガン入れないじゃないですか? サウンドの構築とかは海外っぽいですよね。でも、歌はめちゃめちゃJ-POPっていう。そのバランスがいいんだろうなって。

―音像にも気を使ってるから、新しい曲から昔の曲にさかのぼってもしょぼく聴こえないと。

川谷:ちゃんと期待に応えようとしてる感じがします、いい意味で裏切らないというか。King Gnuは逆に裏切っていくスタイルじゃないですか? 手札がいっぱいあって、4人それぞれ技術もあるから「バンド」として押し出してる感じですけど、ヒゲダンはやっぱり「ヴォーカル」だなって。蔦谷(好位置)さんのアレンジで、管楽器がバーッと入ってるような、バンドっぽくないときもあるから。曲によっては「シンガーソングライターなのかな?」みたいな。

―たしかに、King Gnuと比べるとそうですね。

川谷:まあ、米津(玄師)がもっと早くサブスクを開けてたら、もしかしたらわかんなかったですけどね。

YOASOBIとボカロ文化、楽曲評価時代

―米津さんは「国内で最も再生されたアーティスト」の7位ですね。サブスクの解禁が8月だったことを考えれば、異例の上位とも言えますし、『STRAY SHEEP』の圧倒的なフィジカルセールスを考えると、低いとも言えるのかもしれない。

川谷:もっと行くのかなって思ったんですけどね。フィジカルが売れすぎたのもあるのかな? まあでもやっぱり、ヒゲダンが異常に強いですね。「I LOVE…」はドラマも当たったし、タイアップに恵まれたのもあるでしょうし。あとはYOASOBIですよね。「夜に駆ける」が1位じゃないんだって思いましたもん。スタートダッシュの違いですかね。バズり始めたのが4月くらいだったから。

―1位の「Pretender」は去年からずっとですからね。でも、YOASOBIとヨルシカ、ずっと真夜中でいいのに。(以下、ずとまよ)も含めて、ネット発のアーティストがよく聴かれました。

川谷:最初に言ったように、楽曲評価時代ってことですよね。YOASOBIは途中から表に出てきたけど、あとの二組は表に出ないじゃないですか? もともと米津もそうですけど、2020年はくじらくんとyamaとか、ボカロPとヴォーカリストの組み合わせがヒットしている。これもすべてボカロ文化の延長線上にあるから、ニコ動ってすごかったんだなって。初音ミクが出てきて、それが一旦終わったあと、生身の人間になって、みたいなフェイズですよね。

―細かく言うと、それこそ米津さんやヒトリエが人間として出てきて、今度はまた裏に引っ込んで、ミクではなくヴォーカリストを起用してるっていう。何段階もフェイズを経てきてるのかなと思います。

川谷:その中でも今が一番爆発してますよね。このブームはまだ続きそうですけど、YOASOBIの人気まで行く人はもういないだろうなあ。「夜に駆ける」が大ヒットし過ぎて次どうするんだろうと思ってたら、YOASOBIはその後がすごくて。Ayaseくんわかってるなぁって思いました。いろんな曲を作ってるからメロディの構築レベルがすごく高いですよね、いわゆる職業作家の人たちはもういらないんじゃないかって思うくらい。やっぱりすごい人はちゃんと出てくるんですよ。あとYOASOBIは小説から音楽を作り出していますけど、そういうコンセプトもコロナ禍の時代に合ってたなって。コンセプトって基本的に伝わりづらいじゃないですか? コンセプトを打ち出してもそんなにネットで調べられたりしないけど、今はみんな家にいるから動画とかを見る時間が増えて、そこから濃くファンになるっていうか。通勤・通学中に音楽を聴く時間は減ったかもしれないけど、家でYouTubeを見る時間は増えたと思うんですよね。だから、映像映えするアニメのMVの人とかは、2020年軒並み伸びたんじゃないかなって。

TikTok/SNS発のヒットを振り返る

―あと2020年に大きかったのは、やはりTikTokですよね。「国内バイラルチャート」にはその影響が色濃く出ています。

川谷:オレンジスパイニクラブの「キンモクセイ」や、優里の「かくれんぼ」とかは完全にTikTokの影響ですよね。みんな弾き語りして、本人もYouTubeで弾き語りのやり方を教えたり、「近いアーティスト」みたいな感じ。瑛人くんもそうだけど「真似できる」みたいな。しかも、「香水」はMVまで真似しやすかった。それってなかなかないことじゃないですか? それを意図して作ったわけじゃないだろうけど、あれをチョコレートプラネットが真似することで、もう一段階バズッたと思うんです。”ドルチェ&ガッバーナ”っていう歌詞も大きかったけど、「MVも真似できる」っていうのがなかったら、ここまでのヒットにはなってなかった気がします。弾き語りもしやすいし、いろんな意味でハードルが低かったんですよね。優里の曲も弾き語りで、みんな家にいたから弾き語りが伸びて、実際に会えないからTikTokで共有するようになって、TikTokへの投稿が伸びる。あとは「THE FIRST TAKE」ですかね。これもYouTubeを見る時間が増えたことと関連しているはずで、YouTubeチャンネルの名前を冠した曲名がランキングに入るなんて、2019年までにはなかったわけだから。

―DISH//の「猫」が3位で、同じ曲の「猫~THE FIRST TAKE ver.~」が5位ですからね。

川谷:コロナじゃなかったら、こんなことになってなかったかもしれないですよね。それに、「THE FIRST TAKE」も芸人さんが真似したりするじゃないですか?

―コロナでテレビの仕事がなくなった芸人さんがYouTubeをやり始めて、音楽ネタをやるようになったことの影響も大きそう。

川谷:そうですね。みんなテレビよりYouTubeを見てる時代で、もしかしたら、テレビの人よりてんちむの方が知名度が上かもしれない。

―特定の世代はそうでしょうね。

川谷:あと聴かれてるのは、オシャレに自分の生活を彩る音楽みたいな。インスタのストーリーズがそうですけど。

―「国内でSpotifyからInstagramストーリーズに最もシェアされた楽曲」の17位に、indigo la Endの「夏夜のマジック」が入っています。

川谷:不本意ですね(笑)。

―あははははははは。

川谷:でもこれ、独特のランキングですよね。くるりが入ってたり、フジファブリック「若者のすべて」が入ってたり(7位)。でもやっぱり、跳ねてるノリの曲が多い。ミッドテンポで、オシャレで、BGMにしやすい曲が多い気がします。きのこ帝国の「クロノスタシス」(18位)もオシャレじゃないですか? SIRUP「LOOP」(20位)もそうだし……アース・ウィンド・アンド・ファイアーの「September」(14位)が入ってるのはよくわからないけど(笑)。まあでも、やっぱりオシャレさが大事なんですよ、インスタは。自分のオシャレさをアピールする場所じゃないですか? インスタグラマーがシェアしてたらシェアする、みたいなのもありますし。

―2位と3位のVaundyや藤井風に関してはどうですか?

川谷:どっちも和製R&Bっぽい感じではありますよね。Vaundyの方がポップス寄りで、藤井くんはYaffleが絡んでたりもするから、もっと音楽的に一貫してるなって。藤井くんはテレビも出ないし、配信だけじゃなくてフィジカルも売れてるから稀有な存在ですよね。男性のシンガーソングライターでちゃんと人気があって、それが泡ではないというか、ちゃんと実物がある感じがします。Vaundyは「東京フラッシュ」が一番今っぽいというか、R&Bっぽいから、やっぱりオシャレさだなって思うけど、「napori」もTikTokで流行り始めてるし、それだけ来てるんでしょうね。Spotifyの再生数もすごく多いし。この2人って全然タイプが違うのに並べて語られることが多くて、男性シンガーソングライターも増えてきてるなって思います。

川谷の2021年注目アーティストは?

―では、川谷さんが2021年以降の動きを注目しているアーティストを教えてもらえますか?

川谷:ボカロ的な流れと、日本はバンドが強いっていうことを含めると、NEEはアニメーションのMVで、かつバンドっていうのがあんまりいなかったから、「もしかしたら」とは思ってて。実際ちょっとバズってきてるし、綾野剛くんもストーリーズにNEEの曲を載せてたりして。で、彼らのインタビューを読んでみたら、影響を受けたアーティストにゲスの極み乙女。って書いてあって、複雑な気持ちになりましたけど。

―複雑な気持ち?

川谷:(自分が)懐メロみたいになってるのかなって。もちろん嬉しいんですけどね。フェスとかでも年下の人からCDを渡されたりするようになって。今までそんなになかったけど、最近増えたなって。

―今伸びてきてる若手って、川谷さん世代の影響が大きいと思うんですよね。それこそ、ボカロの流れで言うと米津さんの影響が大きいし、バンドで言うと、いわゆるフェス系のバンドじゃない、オルタナとかポストロックの流れでやってきたバンドの影響が強くなっていて。だからこそ構築的だし、内省的だし。ヨルシカとかYOASOBIを聴いていても、この手の女性ヴォーカルからはきのこ帝国の佐藤千亜妃さんの影を感じたりもするし。

川谷:ヨルシカとかもポストロック感ありますもんね。でも、そのリスナーの人たちはポストロックとか知らないんだろうなあ。3cmtourとか絶対知らないですもんね。

―それはピンポイント過ぎ(笑)。

川谷:あとは、さとうもかちゃんとか。一曲ヒット曲が出たら、あいみょんみたいなヒットを生む可能性もあるんじゃないかなって。でも、今って何が当たるかホントにわからないですよね。ヒットの速度が速くて。逆に言うと、CMとかがいらないっていうか、TikTokだけでも「香水」みたいになっちゃうこともあるわけで。ひらめ「ポケットからきゅんです!」、もさを。「ぎゅっと。」とかもそうだし……みんな平仮名3文字だな(笑)。LINE MUSICはまた文化が違って、そちらのランキングは(名前を)見たことない人がいっぱいいるなって思います。

―他にも2020年、個人的によく聴いた日本人アーティストがいたら教えてもらえますか?

川谷:ベランダってバンドはすごくいいですね。ちょっとくるりっぽいっていうか。あとは、Laura Day romanceとか、South Penguinも好きだし、The Songbardsもよくなりそうな感じがしますね。それとカネコアヤノ。彼女は全然流行りを追ってないじゃないですか? (自分の個性が)一貫してるのに、ここまでリスナーが増えてるのは音楽の力だなって思うから、もっと行きそうだなって。あの、コラボしてたじゃないですか?

―KID FRESINOとの「Cats & Dogs」かな。

川谷:そう、あれもめっちゃよくて。カネコアヤノの声はカネコアヤノでしかないんで、あのトラックでも声が入ってきたら急にフォークになる。あれは強いなって思うから、2021年どんな曲を出すのか楽しみです。バンドもいいですからね。

―ギターの林くん(林宏敏:ex.踊ってばかりの国)、いいですよね。

川谷:俺もめちゃめちゃ好きです。ギターの音が良いんですよね。

―他のメンバーもいいですしね。

川谷:特にベースの人(本村拓磨:Gateballers、ゆうらん船)の弾き様、めちゃくちゃかっこいいですよね、好きです。(笑)。彼らもおそらく30代前半とかで、その世代が誰かの後ろで面白いものを作って、それが今の若い子たちに新鮮に聴こえるようになってきてるのかもしれない。だから、ポストロックがめちゃくちゃ来る可能性もなくはないですよね(笑)。

川谷絵音の2020年を総括

―最後に、川谷さん自身の2020年について振り返っていただきたいと思います。

川谷:うーん……何もやってなかった記憶しかないんですよね。

―いやいやいやいや。

川谷:でもホント記憶がなくて、あんまりいつもと変わらなかった気もします。

―曲をたくさん作って出すことが、もうデフォルトになってるわけですよね。

川谷:でも、ゲスのアルバムは出たけど、インディゴはコロナの影響で遅れたので、例年よりは少ないんですよ。逆にライブがなかったんで、じっくり作ることができたっていうのはあるんですけど、ライブをやらなさすぎて、ライブ感を忘れてしまって、曲にもそれが表れちゃったというか。ライブをやりながらだったら、もうちょっと違うものになってたのかなとか、自分の中で思うところはありました。ちょっとバランスが崩れちゃったんで。でも最近はライブがちょっとずつ再開して、「こんな忙しかったっけ」みたいな。制作だけならいいんですけど、ライブやって、制作やって、取材入って、テレビ入ってとなると、ウワッてなっちゃうんですよね。12月は3日にインディゴ、6日にゲスのライブがあって、前日に泊まり込みでリハをして、今日が取材、明日が音楽バラエティー、その翌日がお笑い系のバラエティーの収録とか、意味不明じゃないですか?

―川谷さんでしかありえないスケジュールですね(笑)。インディゴやゲス、ジェニーハイなどの活動もありつつ、ここまでの話との関連で言うと、いろんなヴォーカリストを招くソロプロジェクト「美的計画」の動きは、サブスクの時代らしいものだと感じました。

川谷:ボカロPと歌い手みたいなのが増えたので、僕はちょっと違う感じの曲を作ろうっていう気持ちではいましたね。みんなどうしても邦ロック感が出ちゃうじゃないですか? 邦ロック感が拭えないものが多いけど、僕はそういうのは出したくなくて。一番最近出した「だからラブ」に関しては、参加してもらった相沢ちゃんと映秀。くんは若い子が聴いてる人たちですけど、曲調はビートが少なくてヒップホップっぽい感じで、でも歌はキャッチーにしたり。考える時間があったので、いろいろ考えました。

―美的計画はもともと時代感を意識してスタートさせたものだったのでしょうか?

川谷:いや、そこを考えるのはこれからですね。最初はとりあえず、声が魅力的な人に歌ってもらおう、くらいでしかなかったです。サブスクでウケるような曲を作ろうと思えば作れる気がしますけど、狙いに行くのも面白くないというか。「夏夜のマジック」みたいな曲がサブスクでウケがいいのはわかるけど、ここではあんまりやりたくない。美的計画は挑戦の場でもあるので、どんな位置に持って行こうかいろいろ考えた一年でした。やっぱり、誰に歌ってもらうかが大事なので、歌い手とかも含めて、今まで聴いてこなかったような人たちの歌も聴いたし、Twitterで探したりもしたので結構時間は使いましたね。コロナ期間には、TikTokで「#春の歌うま」チャレンジっていうのをやって、そこから相沢ちゃんを見つけたりもして。今って一般人とプロの差がもうないんで。

―レベルの高さを感じた?

川谷:めちゃくちゃレベル高いですね。相沢ちゃんより上手い人って、探してもあんまりいないと思う。

―プロの中でも?

川谷:そうですね。難しいコーラスでもパッと録ってすぐ送ってくれるんで。それってプロじゃないですか? プロよりもプロっていうか、プロの人の方がもっと手こずると思うんです。今の子たちって、みんな甘えがないんですよ。顔の見えないところで、パソコンで録って送るのが普通だから。でもプロの人たちは、意外と「現場に行けば何とかなる」とか「教えてもらおう」とか、そういう甘えが少しはあると思うんですよね。ネット出身の若い子はそれがまったくない。そういう意味でも、もうプロとアマの差はないなって思いました。途中で言った職業作家とかもそうで、いい曲を作る人にプロもアマもないと思うし。

―いわゆるデジタルネイティブの人たちは、歌でも演奏でも作曲でもレベルが高くて、そういう人たちとコラボすることの面白さはありますよね。

川谷:日本はコラボ文化があんまり浸透してなくて、コライトは特にないじゃないですか? そういうこともいろいろやってみたいと思って。だから、さっき言ったようにichikaくんたちと一緒にやり始めたりもしてるんですよね。あと、僕は歌詞を他の人に書いてもらったことが一回もないので、歌詞を分業にしたらどうなるのかなって思ったり。楽曲提供のときは編曲を全部投げることもあるんで、そういうのももっとやってみたいし。

―その流れで言うと、加藤ミリヤさんのトリビュートアルバム『INSPIRE』で、瑛人とyamaによる「Love Forever」のプロデュースを担当していますね。

川谷:あれは結構よかったと思うんですけどね。瑛人くん的にも新しい感じだったと思うし。これはカバーですけど、プロデュースをするときも基本的に(自分で)曲まで作るし、美的計画も僕が作るわけだから、今後は自分で曲を作るシンガーソングライターのプロデュースとかもしてみたいです。すでに完成してる人に対して、何かを与えるみたいな方がホントは得意なはずなので。そういうのも興味がありますね。

「僕はサブスクに合ってると思う」

―自身の楽曲のサブスクでの聴かれ方に関しては、どんな印象を持っていますか?

川谷:インディゴがめちゃくちゃ伸びましたね。Spotifyのパーセンテージを見ても、去年から200%以上伸びてるんで、もうリスナー数でも再生数でもゲスを超してる。

―「夏夜のマジック」の効果ということですよね。

川谷:そうです。それ以前はゲスの方が多かったんですけど、たった一曲、しかも昔出した曲(2015年)でリスナー数がここまで伸びるっていう。そういう意味で、僕はサブスクに合ってると思うんですよ。曲数が多いからいろんな入口があるんですよね。だから、どれからどれに派生するかわからない。サブスクの関連アーティストっていろんな人が出てきますけど、僕の場合は僕の関連ばっかりなんですよ。それは他の人にはあんまりない強みだと思う。細美(武士)さんがELLEGARDENとthe HIATUS、MONOEYESをやってるとかはありますけど、僕の場合はインストもあるし、バンドじゃないのもあるし、いろんな入口があるから何が起こってもおかしくない。だから、やっぱりサブスク向きだと思うんですよね。まだフィジカルの方が強い時代だったら、「ファンのお金がもたない」とか「どれかに集中しないと」みたいな話になると思うけど、サブスクなら月980円で全部聴けるわけだから。「いっぱいやっててよかったな」と今になって思います。

Photo by Yuuki Oohashi

―海外ではどの活動が一番聴かれてるんですか?

川谷:絶対数が多い分、インディゴだと思います。ただ、そこに関してはちょっと歯がゆいというか。アニメの主題歌をやった人には絶対勝てないんですよね。

―「海外で最も再生された国内アーティスト」のランキングを見ると、ほとんどがアニメ関連の楽曲ですよね。

川谷:そこに関してはどうしても納得がいかなくて。国内での人気と海外での人気がまったく違っちゃってるのは、どうなんだろうなと思っちゃうんですよね。

―途中の話で言うと、やはりシティポップには可能性があるとして、昔の楽曲のリバイバルではなく、現役のアーティストがいかにそれを打ち出せるかはひとつのポイントかもしれないですね。

川谷:マシン・ガン・ケリーの話もありましたけど、ああいうロックとヒップホップみたいに、シティポップと何か、みたいな組み合わせが大事なのかもなって。シティポップだけだったら、昔のものには絶対勝てないと思うので、シティポップと何か……その何かはまだわからないですけど、そこを上手く融合できた人が、もしかしたらアニメ以外の文脈から「海外で最も再生された国内アーティスト」になれるのかもしれない。

―川谷さん自身もそれは目指すところ?

川谷:やりたいとは思うんですけど、あんまり遠くを見ないようにしてる感じでもあって。狙ってしまうと大体人は失敗するものだし、自分が好きなものを作って、それが評価されたらいいなっていうのが一番です。なので、まずはバンドで納得できるものを作ることかなって。ただ、何かしらのビジョンを持つことは必要なので、その意味でも、「真夜中のドア/STAY WITH ME」が流行ってるのはいいことだなって。「2曲目だ」って思ったんですよね。

―「Plastic Love」が偶然のヒットではなくて、ちゃんと流れとして続くものであることがわかったわけですもんね。

川谷:僕は前から「シティポップしかない」って口酸っぱく言ってきたんで、「この流れが続くんだ」って思えたのは、何となく嬉しかったです。

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